研究最前線

人々のつながりに関する新法則を探求

鈴木 伸生(プロフィール

私の研究スタイル:定量的実証研究とは何か?

震災前後の近隣とのつながりの人数に関する遷移分析(統計分析ソフトSTATAの画面)

震災前後の近隣とのつながりの人数に関する遷移分析(統計分析ソフトSTATAの画面)

私は、「人々のつながり」に関する未検証の法則(理論・仮説)の成否を科学的に調べて、新しい法則の発見・確立をめざすタイプの研究(定量的実証研究)をしています。そのために、次のような手順を何度も繰り返す作業を行っています。

まずは、自分がどのようなつながりに関する現象(例:恋愛関係、友人関係、親子関係、近隣関係、取引関係、職場関係、敵対関係など)を一番知りたいのか(自分が不思議に感じること)を決めます。次に、その現象がなぜ・どのように生じるのかについて、そのメカニズム(因果関係や因果連鎖)を、自分の頭で論理(国語、数学)的に考えて、仮の法則を考案します。その際には、自分の考案した法則に関する全アイディアが、先人によって、どのくらい解明されているのか(既に考案・検証済みの部分と未考案・未検証の部分を区別)を、過去の論文を網羅的に読んで判断します。そのうち、未解明・未考案・未検証の具体的なテーマが、自分の解くべき研究課題になります。その後、自分の興味対象である具体的なつながりの妥当な測り方も検討したうえでデータを収集・分析することで、自分の考えた法則が正しいのか間違っているのか、さらには、どのような条件を満たすときに正しいのかを調べます。このような一連の作業過程を楽しみながら(時には、悩み苦しみながら)、研究しています。

最新の研究テーマ:被災者のつながりに関する研究

この文章を書いている段階での私の最新テーマは、東日本大震災後の岩手県大船渡市民を対象とした、人々のつながりの効果とつながりの形成・変化に関する研究です。この研究では、震災被災者の心の復興要因としてのつながりに注目して、「被災者がどのようなつながりを増やすと、幸せになるのか」という因果関係を調べました。

データ分析の結果、震災後に、コミュニケーションをとる近隣がいない状態(0人)から、いる状態(コミュニケーションをとる近隣を新たに1人つくった)へと変わると、つくった本人の幸福感が高まることがわかりました。この効果は、別の要因による影響を考慮しても(例:男性でも女性でも、高齢者でも若年者でも、無職の人でも専門職の人でも、高収入の人でも低収入の人でも、家が全壊した人でも被害がなかった人でも、一人暮らしの人でも大家族の人でも…)、成立しました。ただし、新たにつくった近隣の人数が2人以上に増えても(2人から3人、3人から4人…)、幸福感は高まりませんでした。つまり、被災者の幸福感を向上させるには、コミュニティとの孤立状態(コミュニケーションをとる近隣が0人)から脱却する(1人以上へと変わる)ことが大切だったのです。この研究では、震災後の大船渡市民にとって、コミュニティとの孤立状態からの脱却の重要性を発見できました。

そこで、次の新たな研究テーマとして、「どのような特徴をもつ人が震災後に新たな近隣をつくるのか」や「震災後の近隣とのつながりが時間を通じてどのように変わるのか」という課題の謎を解くために、その答えを知りたい一心から、今この瞬間にも必死で研究を進めています。

(2022年4月)

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