研究最前線
ブルシット・ジョブと自治体職員
自治体職員という人びと
自治体職員との意見交換
私の研究テーマは大きく捉えれば「住民自治のしくみの向上」ですが、最近特に着目しているのは自治体職員のエンパワーメントです。全国には約280万人の地方公務員が働いています。本学部をめざす高校生の中には、公務員志望の方も多いことでしょう。しかし、長年自治体の現場で働いてきた私から見ると、自治体職員という仕事ほど、実はその中身が世間によく知られていない仕事はないのではないかと思います。
自治体職員は、まずエッセンシャルワーカーです。コロナ禍で注目を集めた医療や衛生従事者と同様、私たちの生活インフラを支え、一日も欠かすことのできない仕事です。自治体職員は、ケアラーでもあります。弱い立場にある生身の人々に日々向き合います。その仕事は社会の極めて重要なセーフティーネットなのです。
何が彼らの働きがいを奪うのか
その、自治体職員の仕事に近年異変が起きています。働く者のやりがいを客観的に測る「ワークエンゲイジメント」という指標がありますが、ある調査では日本人の様々な職種の平均値が3.42です。これに対し、私が岩手県内のいくつかの自治体で調査した結果は2.65~2.78です。3.0を切ると早期離職が多くなると言われ、これは危険なレベルです。なぜ、このような状況が生まれているのでしょうか。
社会課題が高度化・複雑化する一方、職員数は減っているので仕事の量が増え、現場を圧迫していることは確かです。しかし、私はそれ以上に仕事の「質」の問題が大きく影響しているのではないかという仮説を持っています。その一つが“ブルシット・ジョブ”の蔓延です。
ブルシット・ジョブの危険
ブルシット・ジョブとは、世の中の役に立たず働く人自身もまったく無意味だと思っている仕事のことを言います(D. Graeber)。例えば現代思想家の内田樹氏は、経済(パイ)が縮んでいる時に「誰が無駄をしているのかを暴き出し、誰の取り分を減らすかを決める」ための査定や評価は、典型的なブルシット・ジョブだと言っています。行政資源が縮む中にあって政策を<民主的に><正当化>しなければならない行政の仕事は、気を付けないと無数のブルシット・ジョブに侵食されてしまいます。
これを避け、職員の働きがいを取り戻すには、地域とつながり、住民と顔の見える人間的な関係を築くこと、その中で自分たちの仕事の成果を喜んでもらったり時には怒られたりする、血の通った経験を積むことが欠かせないと私は考えています。毎日パソコンに向かっていては得られない、人としての成長です。
研究のこれから
もちろん、そのためには自治体業務そのものの合理化も不可欠です。これらを実証するために、県内外の自治体職員や地域住民にアンケートやインタビュー調査を行ったり、時には学生とともに現場で一緒に活動したりする中で定量的・定性的なデータを蓄積・分析し、自治体の地域政策や人事政策への提言をめざしています。学生のみなさん、地域のみなさん、一緒に汗を流しながら住民自治と行政のあり方について考えていきませんか。
施策現場でのヒアリング
過疎集落の生活実態調査
(2022年4月)