研究最前線

貝に卵を産む魚の保全

鈴木 正貴( プロフィール

農業土木屋が取り組む生態系の保全

ほ場整備の様子

ほ場整備の様子

登下校の道すがら、皆さんが田んぼをみる機会は多いと思います。その田んぼは、一筆の面積が広く、脇を流れる水路はコンクリートでできていませんか?このような田んぼや水路は、農家が稲を育てる際の労力を軽減するなどを目的とした「ほ場整備」によって作られたもので、全国にある田んぼの6割以上で実施されています。しかしながら一方で、ほ場整備は様々な生きものの生息場を消失させる一因にもなっています。私が学んだ農業土木学は、このほ場整備を行うために必要な技術の開発を担ってきました。それゆえ、田んぼまわりの生きものの生息数を減少させてしまった従来のほ場整備の工法を見直し、農家が作業しやすい田んぼを作るといった目的はそのままに、生きものも保全できるほ場整備はどのように実施したら良いのかを考えるようになりました。

タナゴに利用される淡水二枚貝

ほ場整備の様子

タナゴの産卵

岩手県の田んぼまわりには、絶滅のおそれのあるタナゴという魚が棲んでいます。さほど大きくない魚で、オスは繁殖の時期になると、体側が紫色を帯びて、お腹は黒くなり、とても綺麗です。興味深いのは産卵行動で、メスは産卵管という体から伸びる長い管を淡水に棲む二枚貝の中に差し込んで、卵を産みつけます。卵は二枚貝のなかで孵化し、1ヶ月程度で二枚貝から浮上して水中を泳ぎ出します。つまり、タナゴは子どもを増やすのに二枚貝が必要なのです。さらに、この二枚貝も、子どもが大きくなるためには魚に寄生する必要があります。しかも、二枚貝の種類によって寄生できる魚は決まっていて、産卵に利用されてしまうタナゴには寄生できません。このように、タナゴが生息するには、本種と二枚貝、それから二枚貝とタナゴ以外の魚という相互関係が成立していなければならないのです。

タナゴを保全すること、すなわち淡水二枚貝を保全すること

タナゴは二枚貝や他の魚と相互関係にあるので、タナゴを保全しようとすれば、この相互関係にある生きものも保全しなければなりません。とくに、産卵に必要な二枚貝は絶滅のおそれのある種が多く、人工増殖技術も確立していません。さらに、生息場となっている水路は、ほ場整備に伴ってコンクリート化が進められています。すなわち、タナゴの保全には、二枚貝の保全が必要なのです。ほ場整備を行う際に、二枚貝の生息地があれば、まずは現状維持すべきです。でも、それが叶わない場合はどうしたら良いでしょうか?私は、このような状況をふまえ、保全地の造成や、コンクリート化された水路における二枚貝の生息場の創出を試みています。

二枚貝の生息場の創出
(コンクリート水路底面に土砂を投入)

保全地の造成

(2018年7月)

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