研究最前線

岩手県の海浜植物の保全

島田 直明(プロフィール

津波・地盤沈下と海浜植物

東日本大震災を引き起こした津波や地盤沈降によって、沿岸域では非常に大きな被害を受け、海岸部の砂浜植生や防潮林などにも大きな影響を被りました。砂浜植生は発災当年から再生している場所もあり、津波では地上部の枯れてしまうなどの影響はあったものの、地下部に根茎が残っている場所では、比較的速やかな再生が見られました。一方、地盤沈降によって、海浜植物の生育範囲が狭まることによる影響が大きかったと考えられます。特に、岩手県のように砂浜の幅・面積が小さい海岸が多数を占める場合、その影響は大きいです。

海浜植物と復興工事

津波や地盤沈降によって大きな影響を受けた砂浜ですが、岩手県では多くの海浜植物が生育している砂浜は18か所しか残っていませんでした。このような貴重な砂浜でも復旧工事である防潮堤工事が行われ、海浜植物の生育地がなくなってしまうケースもあります。海浜植物がたくさん残る幾つかの砂浜において、県立大と岩手県が協力して、保全活動を行っています。私が関わっている場所は、十府ヶ浦(野田村)、藤の川(宮古市)、船越(山田町)、大野(陸前高田市)などがあります。

十府ヶ浦の仮移植地の様子(2016年5月)。十府ヶ浦に生育していたほとんどの海浜植物がこちらの仮移植地にも出現しています。
十府ヶ浦の現地保全区の様子(2016年5月)。保全区内ではハマナス,ハマエンドウ,ハマベンケイソウなどが生育しています。写真の赤紫色の花はハマエンドウの花。

海浜植物の保全活動

船越小学校と行っている苗づくり授業。この写真は仮移植地への移植を行っているところ。

ここでは十府ヶ浦と船越の事例を紹介します。この2か所では、①現地保全区の設置、②根茎や種子を含んだ表土の移植と工事終了後の再移植、③種子や根茎による苗づくりと工事終了後の移植、④種子を保存し工事終了後に砂浜に播きだし の4つの保全策を立てました。 これらの作業から海浜植物の保全を行うことになりました。①や②は岩手県にお願いをして、場所を設定してもらい、移植の作業をしてもらいました。

県立大では③と④を中心に行っています。③の苗づくりでは、ハマナスの苗が約1000本、ハマベンケイソウが約500本程度、ほかの種類もたくさん生産することができました。工事が終わり、現地に戻すことができるまで、まだ苗づくりが続きます。船越では、近くの小学校と協働で海浜植物の苗づくりを始め、仮移植地への移植を行うことができました。この授業は2017度も継続して行われる予定である。

このような活動を通して、最終的には海岸・砂浜の原風景を復元できるようにしていきたいと考えています。

(2017年3月)

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