研究最前線
投資家に信頼される、持続可能な証券市場の実現と法の役割
投資と法のかかわり

いま日本では、「投資」に対する国民的関心が高まっています。資産形成のため、あるいは老後資金のため……。少額投資非課税制度(NISA)の効果も大きいでしょう。動機はさまざまですが、「投資」というものは、かなり身近なものとなりました。
さて、私の専門分野は「法律学」です。「投資」と聞くと、経済に関する問題であって、法律がどうかかわるか不思議に思う人もいるでしょう。実は、われわれ国民が「投資家」として安心して参加できる市場をつくるには、法の役割が重要な鍵となるのです。
ディスクロージャー規制の役割
典型的な投資商品といえば、株式です。われわれ投資家は、株式を購入することで「株主」となり、会社の事業活動を支えています。東京証券取引所には、3920社が株式を上場し(2026年3月31日現在)、多くの株式が投資家の間で日々売買され、「株価」が公表されています。
株価は、端的にいえば、需要と供給で決まるものです。この需要と供給は、株式を発行する上場会社自身の持つ「投資価値」によって決まります。このため、上場会社の財務状態を含むさまざまな情報が、できるだけ多く投資家に提供する必要があります。そこで、金融商品取引法(金商法)は、上場会社に情報開示(ディスクロージャー)を義務づけています。このように、「株価」が形成されているのです。
相次ぐ粉飾決算
「粉飾決算」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。簡単にいえば、企業会計ルールに違反し、資産、損益、キャッシュフローといった数字を操作することで、虚偽の財務諸表等を作成し、投資家に開示する行為のことをいいます。近時、上場会社においてこのような粉飾決算が明らかになり、株価が下落するという事例が後を絶ちません。アメリカでは、虚偽の情報開示は、「市場に対する詐欺」(fraud on the market)と位置づけられ、投資者に対し損害賠償責任等を負うことがあります。
すなわち、粉飾決算という虚偽の情報を故意に作出し、投資家に開示することは、投資判断を誤らせ、ひいては財産的損害を与えてしまうという点で、市場を騙す行為といえます。日本においても、粉飾決算を含む虚偽記載は重大な法令違反であり、金商法は、投資家に対する損害賠償責任等を通じ、投資家の救済を実現するのみならず、虚偽記載自体の抑止を図ろうとしています。
信頼される、持続可能な証券市場の実現に向けて

虚偽の情報開示が横行する証券市場では、投資家は安心して参加することができません。投資家が証券市場から離反すれば、上場会社は、必要な事業資金の調達が困難となり、ひいては日本、世界の経済に打撃を与えます。
金商法は、上場会社に損害賠償責任を課すことで投資家の保護を図ろうとしていますが、事後の賠償責任にも限界はあります。上場会社のディスクロージャーの適正性を担保するには、情報開示をチェックする体制を充実させることも欠かせません。たとえば、会計監査人(公認会計士・監査法人)、金融商品取引所といったゲートキーパー、行政庁の役割も重要です。
また、取締役の義務・責任や内部統制といったコーポレート・ガバナンスの観点からは、金商法だけでなく、会社法の役割も、併せて検討していく必要があります。
(2026年5月)
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