研究最前線

両輪を回す:EBPMと批判的政策研究

杉谷 和哉(プロフィール

「EBPM」とは何か

著書、『政策にエビデンスは必要なのか』(ミネルヴァ書房)と、『日本の政策はなぜ機能しないのか?』(光文社)

昨今、政策の現場では「EBPM」(Evidence Based Policy Making)という言葉をよく見かけます。「エビデンスに基づく政策形成/立案/決定」などと訳されるこの言葉は、政策をもっと合理的に推進していこうとする理念や運動を指します。

データや分析を通じて得られた結果に基づいて政策を作ることで、限られた貴重な資源を有効に使うためにも、EBPMは是非とも必要とされていると言えるでしょう。

エビデンスだけで政策を決めてよいのか?

科学的な根拠に基づいて政策を決めることは是非とも必要ですが、それだけで政策のすべてを決めてよいかというと、決してそうではありません。なぜなら、政策は権力に関わるもので、人々の同意が伴っていなければならないからです。

ここで言う「権力」とは、政府や自治体が税金を原資とし、法律をバックにいろいろなことができる権限を指しています。私が大学院時代を過ごした京都では、路上に止められた自転車がしょっちゅう、「違法駐輪」として自治体によって回収されていました。もしもこれを、一般の人がやったら間違いなく窃盗罪です。

ですが、政府や自治体は違うわけですね。お金もあり、権限もある強力な主体が、どのようにその力を振るうかについて私たちは、科学的な根拠という妥当性のみならず、色々な側面から考える必要があるのです。

「批判的政策研究」とは何か

そこで大事な視点を与えてくれるのが、「批判的政策研究」(Critical Policy Studies)という研究アプローチです。このアプローチは、政策を批判的に論じることを主たる目的にしています。

たとえば、ある政策を分析するにあたって、数値による分析だけでなく、それがどのような影響を及ぼすのかといったことを、このアプローチでは考えます。 たとえば、データを使うと言っても、そのデータそのものに偏りがある場合はどうでしょう。たとえば、先進国の人々の健康データはたくさんあるのですが、途上国の人たちのデータはそれほど充実していません。

こうした偏りが政策に及ぼす影響には大きなものがあるはずなのですが、単にEBPMを推進しているだけでは気づくことのできないポイントです。

両輪を回す

私はEBPM研究と批判的政策研究の双方に従事しています。後者は前者を手厳しく批判していますから、全く正反対の研究スタンスと言ってよいものです。こうした矛盾したスタンスの研究に取り組んでいて思うのは、「両方とも社会にとって必要だ」ということです。

科学的な根拠に基づいて、キチンとした政策を進めていくのも大事ですが、そういった政策が社会における不平等を助長したり、力の弱い人たちを苦しめる構造の強化に加担したりしてはいけません。そうした多面的なチェックをするための手がかりが必要です。まさに、これらは車を前に進めるための「両輪」のような役割を果たすと言えます。

(2026年5月)

研究最前線一覧に戻る