研究最前線

地域に生きるひとから学ぶ
―民俗芸能の現場から地域を考える

牧野 由佳(プロフィール

なぜ民俗学研究者が総合政策学部に?

2026年4月に総合政策学部に着任しました。専門は民俗学です。「民俗学を研究する人が、なぜ総合政策学部に?」と思われる方も多いかもしれません。けれど、地域での生活や行事・祭りの現場は、政策の影響を強く受けながらかたちづくられてきたものでもあります。そして政策もまた、地域に生きる人びとのために働いてこそ意味をもつはずです。

私はこれまで、人びとの暮らしの内側から、そのありようを考えてきました。民俗学は地域政策と、決して遠い学問ではないと考えています。

変わり続けることで続いてきた民俗芸能―梯子獅子の調査から

民俗学は、身近な生活のなかの「あたりまえ」を問い直し、人びとの知恵や工夫を読み解く学問です。

私はこれまで、梯子(はしご)獅子(しし)という獅子舞を伝承している地域での調査を続けてきました。梯子獅子は、高さ数メートルの梯子や櫓の上で、獅子頭を身に着けた二人一組の担い手がアクロバティックな技を演じる、スリルあふれる民俗芸能です。なかでも私は愛知県知多市朝倉地区というところに10年あまり通い、たくさんの方にお世話になりながら、地域における民俗芸能を伝承する意義や、社会情勢の変化にともなう民俗芸能の変容などについて考察をしてきました。

朝倉の梯子獅子(愛知県知多市・牧野撮影)
櫓の上で飛び跳ねる獅子(愛知県知多市 朝倉の梯子獅子・牧野撮影)

民俗芸能のような「伝統的」に見えるものは、昔から変わらず伝えられていると思われがちです。しかし実際には、多くの民俗芸能は、地域社会の変化に応じてかたちを変えながら受け継がれてきました。たとえば朝倉では、地域の生業や暮らしの変化に合わせて、祭礼の日取りが何度も変更されてきました。具体的には、大正期には養蚕業の繁忙期を避けるために、また、戦後の高度経済成長期には第一次産業の衰退やサラリーマンの増加に対応するために日取りが変えられています。担い手の組織も、地区の青年男性が義務として参加する形から、朝倉出身者にとどまらない有志による自発的な参加へと姿を変えています。さらに戦後は、文化財に指定されたり、伊勢神宮で奉納する機会を得たりと、地域の外から梯子獅子に注目が集まるようになりました。

地域の人びとは、外からの問いかけに応えるなかで、自分たちの芸能の由来を改めて語り直し、梯子獅子に込める思いにも新たな展開が生まれていきました。朝倉の梯子獅子は、いわば「変わり続けることで続いてきた」民俗芸能なのです。

地域に生きるひとから学ぶ

民俗学における研究の基本は、フィールドワークです。人びとがどのようなことを考え、何を大切にしながら生活を営んでいるかなどを、地域に繰り返し通い、そこに住む人に話を聞いたり、行事や日々の暮らしと自然環境の関わりなどを現地で観察したりすることを積み重ねることにより考えます。また、聞き取り調査や観察だけでなく、地域に残る記録類なども重要な資料の一つです。こうした作業の根本にあるのは、地域に生きる人から学ぶという姿勢です。

三陸へ―梯子虎舞の現場から

平組はしご虎舞(岩手県大船渡市・牧野撮影)

岩手県大船渡市や陸前高田市、宮城県気仙沼市には、梯子の上で演じる虎舞「梯子虎舞」が伝えられています。私は数年前から、この芸能の調査を少しずつ続けています。

なぜ危険をともなう芸能を人びとは続けるのか。そこに担い手たちはどのような祈りを込め、どのような楽しみを見出しながら取り組んでいるのか。災害や地球規模の気候変動、社会情勢、「文化」というものの捉え方そのものの変化を受けて、地域社会もまた大きく揺らいでいます。

そうしたなかで、地域の生活と芸能との関係がどう変わり、どう受け継がれていくのかを、これからも腰を据えて見つめていきたいと考えています。みなさんもフィールドワークを通じて、地域の先人たちから学ぶ豊かさを味わってみませんか。

(2026年5月)

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