研究最前線

フィールドワークの「最前線」で思うこと

佐藤 周平(プロフィール

なぜ集落は合併しないのか/合併したのはなぜか?

山腹を流れる用水路から見た研究対象地域の家並み
(2024年5月撮影、新潟)

私は、農山村社会の仕組みや歴史、近年の変化について関心を持っています。現在は、集落が合併したのはなぜか、どのように合併したのかについて研究しています。農山村の人口減少や少子高齢化は全国的に進行しているため、人口の少なくなった集落を一つにまとめることについても多くの研究があると思うかもしれません。しかし、集落合併に焦点を当てた研究は決して多くありません。

私の調査対象地域は、新潟県の豪雪地帯の山村地域にある3つの集落です。この3つの集落は2020年に合併し、新たに1つの町内会を発足させました。これまでの研究では、人口の推移や世代交代、集落の会計の仕組み、住民の仕事(とくに公共工事や除雪など)の観点に着目し、それらと集落合併の関係について調査することで、集落合併の要因を多角的に明らかにしてきました。

フィールドワークは自分にとっての「最前線」

私は、この集落合併というテーマについて、フィールドワークという手法で研究してきました。具体的には、現地を訪問して、住民の方にお話をうかがったり、現地で保管されている資料を見せていただいたりして、研究を進めてきました。

住民の方と直接お話しする聞き取り調査は、調査者である私が、住民の方に質問をして、その答えを聞き、さらに質問をする…の繰り返しです。初対面の方にお話をうかがうのは緊張しますし、場合によっては逆に質問されることもあります。質問することは準備できても、質問されることまでは準備できません。うまく答えられないことや戸惑うことも度々あります。住民の方と直接コミュニケーションをとる聞き取り調査は、その場その場の判断が求められるという意味で「最前線」と言い表すにふさわしいと感じています。

フィールドワークの「最前線」で自分を見つめ直す

しかし、聞き取り調査の対象者から逆に質問されたり、思いがけない言葉をかけられたりする経験は、緊張だけでなく、私にさまざまな気づきをもたらしてくれる貴重な経験なのです。つまり、フィールドワークの「最前線」は自分を見つめ直すきっかけにもなるということです。

なによりも自分を見つめ直すきっかけになったのは、長野のある村での聞き取り調査で、私自身の出身地を尋ねられて、私が東京の出身だと答えたうえで、どうしてこの村の研究をしているのだと質問された経験です。この質問にはうまく答えられなかったと記憶しています。しかし、この質問への私なりの答えは、その後の聞き取り調査のなかに見つけることができました。それは、新潟の山村で聞き取り調査をした際に、地元出身の方が若いときに東京で働いていて、さらに、その場所が私の生まれ育った地域だったことです。東京という都市には、農山村から上京した多くの人々によって形作られてきた歴史があることは理解していましたが、身近な地域の話題で盛り上がった経験は、都会出身の私と農山村のつながりを捉え直すきっかけになりました。ほかにも、長野のある村の郷土資料のなかに、関東大震災のときに、その村の人たちが私の地元に支援活動にきた際の集合写真を見つけた際にも、同じようなつながりを感じました。

卒業研究で訪れた村の様子(2018年8月撮影、長野)

いつも調査でお世話になっている方からかけられた言葉も忘れられません。私が、その方に研究者のキャリアパスや私自身の進路について説明した際に、「博士(号)があっても米は作れない。博士(号)がなくても米は作れるのにな」という言葉をいただきました。米作りに対する誇りを感じるとともに、厳しい自然環境と関わりながら生活する術を持っていることに対する自負を感じました。同時に、生きていくために必要な食料を作ることができない私自身のもろさを再認識した気がしました。

フィールドワークの「最前線」に立ってみませんか

大学近くにある用水路から新たな研究を着想したいと考えています(2025年7月撮影、岩手)

大学での学びには、さまざまなものがあると思います。講義で学ぶこと、アルバイトやサークル活動などで経験すること、それらのどれも大切だと思います。しかし、これらの経験を通してではなく、フィールドワークだからこそ得られるもの、フィールドワークでしか得られないものがきっとあります。フィールドワークというきっかけがなければ決して出会わなかった人から、思いがけず教えられること、刺激を受けること、自分の考えが変わること、忘れられないような経験をすること、その後自分で何度も考え直すような言葉に出会うことが少なからずあると思います。

緊張したり、面食らったりすることもあるかもしれませんが、自分を見つめ直す経験ができるフィールドワークに挑戦してみませんか。

(2026年5月)

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