研究最前線
自然地理学と地域景観
自然地理学とは
みなさん全員、社会科や地理総合などで「地理」を学んできたはずです。その授業では、地形、気候、資源、農業、自然災害、文化、地図など、幅広い内容が扱われていたと思います。大学で学ぶ「地理学」も基本的に同じです。ただし、地理学は「地+理学」ですから、暗記科目ではなく理屈で考える科学です。
私は自然地理学、とりわけ地形学を専門としています。地形とは大地の形状です。この地域にはなぜこのような地形があるのか? この地形はどのようにして形成されたのか? これらが地形学の基本です。地形の研究では、その地形を構成する地質や岩石について調べます。これらは見方によっては「資源」と言えます。また、地形の成因を調べると、その形成作用は人間にとっては「自然災害」であることが多いです。形成時期を考えると、地球の「気候変動」の歴史や「考古学」が関係してきます。地形を研究するためには、様々な分野の知識も必要になります。
古来、人々はそれらの地形条件、構成物、自然災害などを総合的に考慮して居住地や農地などに利用する場所を選定し、自然を改変してきました。それが積み重なることで、その地域の「産業」「文化」「歴史」「地域景観」が成立しました。自然地理学とは、これらの自然条件・自然環境と人々の生活との関係を探る学問です。
岩手のたたら製鉄と地形
釜石市の世界遺産・橋野高炉跡は、日本の近代製鉄発祥の地です。この橋野高炉が建設される前から岩手の北上山地・沿岸地域では製鉄が盛んであり、江戸時代には中国山地に次ぐ国内第二の産地でした。当時の岩手の製鉄産業を支えたのは、北上山地に広く分布する花崗岩と豊富な森林資源でした。
近代製鉄以前の日本の製鉄方法は「たたら製鉄」と呼ばれ、鉄鉱石ではなく砂鉄が原料です。大量の砂鉄を集めるために、花崗岩由来の土砂を流水に流し、わずかに含まれる重い砂鉄だけを選別して集める「鉄穴流し(かんなながし)」という行為が盛んに行われました。その結果、北上山地の花崗岩の山々では表土がごっそり剥ぎ取られ、川には大量の土砂が流れ込んで氾濫し、海岸には砂浜が発達しました。その痕跡は、150年以上経った現在の地形や堆積物にも多く残されています。
このような製鉄に伴う自然破壊の影響は中国山地では詳しく研究されていますが、北上山地では未解明な部分が多く残されています。まずは、北上山地における鉄穴流しの実態を明らかにするために、森林下に隠れた鉄穴流しの痕跡や河川沿いに溜まった土砂について調査し、北上山地における鉄穴流しの歴史や自然環境に及ぼした影響について解明することを目指しています。
また、久慈地域には国内では珍しい砂鉄鉱床が存在し、古くから「ドバ」と呼ばれ、たたら製鉄に利用されてきました。久慈地域特有の鉱産資源であるドバの利用法や利用開始時期についても、地形や堆積物から科学的に検証することを目指しています。
高家川支流(洋野町)にて撮影。
小久保海岸(大槌町)にて撮影。
不思議な地形の謎
岩手県には、三陸海岸、鍾乳洞、火山など、多くの景勝地があります。景勝地とは、景色が優れていて、観光の対象となる自然景観や名所が存在する場所です。三陸海岸の北山崎海岸や浄土ヶ浜、内陸部の龍泉洞や猊鼻渓、焼走り溶岩流などの有名な景勝地には、美しさや豪快さで特筆される地形が存在します。これらの地形を見ると、「どうやったらこのような地形ができるのだろう?」と不思議に思うのではないでしょうか。目立つ地形なので興味を持つ研究者も当然多いのですが、地形の成り立ちについての解説を調べてみると、専門家による推測だけで、信用に足る研究論文等が存在しないことが多々あります。
誰かが巨石を乗せたように見える、遠野市綾織の続石。
景勝地にある不思議な地形・美しい地形は、観光資源として重要であるとともに、地元の誇りでもあります。国内他地域に比べると、岩手県内の地形には十分に研究されていないものが多く残されています。岩手県内の景勝地を構成する自然景観について、その魅力や不思議を科学的に解き明かすことも必要と考えています。
(2026年5月)
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