研究最前線
人による水環境のゆがみ
水環境のゆがみ
私たちの身近にあり、いつも水が流れる川ですが、実は人の活動によって「ゆがみ」が生じています。農業や工業、飲料水などとして水を使います。さらに、人口が集中したことで人の財産や生命を守る必要が生じます。
河川は直線状に変わり、コンクリート護岸で固められました。そして人は水環境を汚染します。そうすると、人の意識は自然としての川から離れ、単なる排水路、水害を生じる危険な場所として意識するようになります。
下水道行政による水環境の改善
そのような中、公共下水道や合併浄化槽による水環境の改善が図られました。特に公共下水道の効果はてきめんです。都市河川を中心に各地で水質が改善し、生き物が戻ってきたという報告が聞かれるようになりました。
しかし、水はきれいになっても、堰は残り、水生生物の移動を妨げます。護岸は水際を単調にし、水生生物の生息や産卵の場が失われます。もう少し、水生生物の身になって改善する必要があります。
私が専門とする生態工学分野では、様々な改善方法が提案されています。水がきれいになったからOKではなく、本来生息していたはずの水生生物に思いを馳せ、水域の生物多様性増進、ネイチャーポジティブの視点から水環境を見直す時を迎えています。
最近の研究から
岩手は自然が豊かなイメージがあります。滝沢市内を流れ、盛岡市に至る木賊川には絶滅危惧種のカワシンジュガイが生息しています。カワシンジュガイは、ヤマメに幼生が寄生し、上流に運んでもらって稚貝が脱落するので、通常は上流側に稚貝が分布します。しかし、木賊川では上流側に稚貝は見られず、住宅地を流れる下流側に稚貝が生息する不思議な分布なのです。
調査の結果、住宅地を流れる下流側は、公共下水道の完備で水質が改善したことで、カワシンジュガイが定着、稚貝が生息できる環境になっていることがわかりました。一方で、上流側は高速道路排水(凍結防止剤の塩化ナトリウムなど)の影響を受け、親貝は生息できても稚貝が生きづらい条件になっていることが明らかになりました。
豊にみえる岩手の自然も人の営みがゆがめています。改善する方法はないでしょうか?
水環境のこれからを考えた研究
排水処理技術の向上や公共下水道のおかげで水環境はだいぶ改善しました。しかし、まだまだあちこちにゆがみが残ります。それに気づき、「岩手の自然は豊かだから」と思って安心せずに、改善に向けて働きかける必要があります。
そのためには、問題がどこにあるのかに気付く必要があります。水環境の調査は地道なものですが、フィールドに出て、見て、考えて、サンプルを採取して分析する。この繰り返しで答えが見つかることもあるのです。その答えを実地に応用し、水生生物の身になって水環境のゆがみを改善できれば、その恩恵は人にも返ると考えています。
(2026年5月)
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